- 歌番号
- 001
- 歌人(作者)
- 天智天皇
- (てんじ てんのう)
秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ
読み
あきのたの かりおのいおの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
あきのたの かりおのいおの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすちょう あまのかぐやま
あしびきの やまどりのおの しだりおの ながながしよを ひとりかもねん
たごのうらに うちいでてみれば しろたえの ふじのたかねに ゆきはふりつつ
おくやまに もみじふみわけ なくしかの こえきくときぞ あきはかなしき
かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける
あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
わがいおは みやこのたつみ しかぞすむ よをうじやまと ひとはいうなり
はなのいろは うつりにけりな いたずらに わがみよにふる ながめせしまに
これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも おうさかのせき
わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね
あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ おとめのすがた しばしとどめん
つくばねの みねよりおつる みなのがわ こいぞつもりて ふちとなりぬる
みちのくの しぶもじずり たれゆえに みだれそめにし われならなくに
きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこん
ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは
すみのえの きしによるなみ よるさえや ゆめのかよいじ ひとめよくらん
なにわがた みじかきあしの ふしのまも あわでこのよを すぐしてよとや
わびぬれば いまはたおなじ なにわなる みをつくしても あわんとぞおもう
いまこんと いいしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな
ふくからに あきのくさきの しおるれば むべやまかぜを あらしというらん
つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど
このたびは ぬさもとりあえず たむけやま もみじのにしき かみのまにまに
なにしおわば おうさかやまの さねかずら ひとにしられで くるよしもがな
おぐらやま みねのもみじば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ
みかのはら わきてながるる いずみがわ いつみきとてか こいしかるらん
やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもえば
こころあてに おらばやおらん はつしもの おきまどわせる しらぎくのはな
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし
あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき
やまがわに かぜのかけたる しがらみは ながれもあえぬ もみじなりけり
ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しずこころなく はなのちるらん
たれをかも しるひとにせん たかさごの まつもむかしの ともならなくに
ひとはいさ こころもしらずふるさとは はなぞむかしの かににおいける
なつのよは まだよいながら あけぬるを くものいずこに つきやどるらん
しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける
わすらるる みをばおもわず ちかいてし ひとのいのちの おしくもあるかな
あさじうの おののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこいしき
しのぶれど いろにいでにけり わがこいは ものやおもうと ひとのとうまで
こいすちょう わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもいそめしか
ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すえのまつやま なみこさじとは
あいみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもわざりけり
おー(ぅ)ことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
あわれとも いうべきひとは おもおえで みのいたずらに なりぬべきかな
ゆらのとを わたるふなびと かじをたえ ゆくえもしらぬ こいのみちかな
やえむぐら しげれるやどの さびしさに ひとこそみえね あきはきにけり
かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもうころかな
みかきもり えじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもえ
きみがため おしからざりし いのちさえ ながくもがなと おもいけるかな
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを
あけぬれば くるるものとは しりながら なおうらめしき あさぼらけかな
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
わすれじの ゆくすえまでは かたければ きょうをかぎりの いのちともがな
たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なおきこえけれ
あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの おうこともがな
めぐりあいて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よわのつきかな
ありまやま いなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
やすらわで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて
いにしえの ならのみやこの やえざくら きょうここのえに においぬるかな
よをこめて とりのそらねは はかるとも よにおうさかの せきはゆるさじ
いまはただ おもいたえなん とばかりを ひとづてならで いうよしもがな
あさぼらけ うじのかわぎり たえだえに あらわれわたる せぜのあじろぎ
うらみわび ほさぬそでだに あるものを こいにくちなん なこそおしけれ
もろともに あわれとおもえ やまざくら はなよりほかに しるひともなし
はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かいなくたたん なこそおしけれ
こころにも あらでうきよに ながらえば こいしかるべき よわのつきかな
あらしふく みむろのやまの もみじばは たつたのかわの にしきなりけり
さびしさに やどをたちいでて ながむれば いずこもおなじ あきのゆうぐれ
ゆうされば かどたのいなば おとずれて あしのまろやに あきかぜぞふく
おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでに ぬれもこそすれ
たかさごの おのえのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなん
うかりける ひとをはつせの やまおろし(よ) はげしかれとは いのらぬものを
ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あわれことしの あきもいぬめり
わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもいにまがう おきつしらなみ
せをはやみ いわにせかるる たきがわの われてもすえに あわんとぞおもう
あわじしま かようちどりの なくこえに いくよねざめぬ すまのせきもり
あきがぜに たなびくくもの たえまより もれいずるつきの かげのさやけさ
ながからん こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもえ
ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
おもいわび さてもいのちは あるものを うきにたえぬは なみだなりけり
よのなかよ みちこそなけれ おもいいる やまのおくにも しかぞなくなる
ながらえば またこのごろや しのばれん うしとみしよぞ いまはこいしき
よもすがら ものおもうころは あけやらで ねやのひまさえ つれなかりけり
なげけとて つきやはものを おもわする かこちがおなる わがなみだかな
むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆうぐれ
なにわえの あしのかりねの ひとよゆえ みをつくしてや こいわたるべき
たまのおよ たえなばたえね ながらえば しのぶることの よわりもぞする
みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかわらず
きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねん
わがそでは しおひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし
よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのおぶねの つなでかなしも
みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
おおけなく うきよのたみに おおうかな わがたつそまに すみぞめのそで
はなさそう あらしのにわの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり
こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしおの みもこがれつつ
かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
ひともおし ひともうらめし あじきなく よをおもうゆえに ものおもうみは
ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なおあまりある むかしなりけり